大判例

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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)251号・昭59年(行ケ)115号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告が主張する審決取消事由の存否について検討する。

1 構成上の相違について

(一) 本願発明が、表面部と裏面部との二枚の救命衣本体が平面裁断によつている点

成立に争いのない甲第二号証の一ないし四及び第四号証の一ないし三によれば、先ず引用例には、本願発明の防火用救命衣に相当する防火衣の構成について、「耐熱、熱反射性、通気性の少ない生地で前後左右が同形の人体型カバー」(明細書三頁六行、七行)が記載されている。

そして、前後同形のものによりその防火衣本体が作られることは、「前後左右が同形の人体型カバー」(前掲)であること及びその際「生地」(前掲三頁六行)が裁断されて一体化されてその輪廓を合体して作成される以上、当然のことといわねばならない。

一方、前後同形のものにより簡便に被服を作成するための裁断法として、平面裁断が周知手段であることは原告もこれを争わないところである。

そうすると、引用例に記載された前記のような構成の防火衣本体は、その形成に特定の裁断法を用いるとすれば、これに適した最も簡易な作成方法として、従来周知手段である平面裁断法を用いることも最も常識的で且つ当然に採択される手段というべきである。

しかも本願発明における救命衣本体の平面裁断についての構成については、格別の特徴も認められないから、結局、この点については引用例に示された防火衣に技術的思想としては包含されているというべく、本願発明との間に本質的な相違は認められない。

(二) 本願発明が救命衣を上半身に限定した点

前掲甲第二号証の一ないし四、第四号証の一ないし三に弁論の全趣旨をあわせると、次の事実が認められる。

引用例には、実施の態様としては、下半身部8を切込み9を形成して設けてあるが、考案としての実用新案登録請求の範囲においては、「耐熱、熱反射性、通気性の少ない生地で前後左右が同形の人体型カバー体(1)の袖口(2)を開口し頭部(3)、両手部(4)並に上半身部(5)を開口部のない一連形状とし、前記頭部(3)、両手部(4)、上半身部(5)に着用時に充分な空気保存部(6)を残すような大型に形成し、」(明細書三頁六行ないし一一行)とあるだけで、下半身部をその構成要件としていないし、考案の詳細な説明においてもこれに副うものとして同趣旨の記載(同一頁八行ないし一三行)がみられる。しかも実施の態様として設けられた下半身部については、考案の詳細な説明に、「而して前記上半身部(5)を下方に筒状に延長して形成した」(同一頁一五行ないし二頁一行)と記載されているから、技術的思想としては、前記のような構成による上半身部のみによる防火衣の形成を前提としており、上半身用に適用可能な防火衣自体をことさら排除していないものというべきである。

そうすると、引用例には、上半身用に限定したものではないとしても、少くとも頭部、胸部、背部、両腕部及び胴部に相当する上半身を保護している防火衣(本願考案における救命衣)も記載されているということができ、救命衣を上半身に限定した点においても、本願発明との間に本質的な相違はないといわねばならない。

(三) 本願発明が、両腕部から、頭部にかけて、また胴部にかけて、傾斜度の関連を限定した点

前掲甲第二号証の一ないし四、第四号証の一ないし三によると、次のように認めることができる。

本願発明における、「頭部から両腕部にかけて水平方向に対し、三五度前後の傾斜度で、広がつていくようにその輪廓を形成し、さらに両腕部から胴部にかけて水平方向に対し三五度前後の傾斜度ですぼまつていくようにし、」の構成に対応する引用例の構成は、「前後左右が同形の人体型カバー体(1)の……頭部(3)、両手部(4)、並に上半身部(5)を開口部のない一連形状とし、前記頭部(3)、両手部(4)、上半身部(5)に着用時に充分な空気保存部(6)を残すような大型に形成」(明細書三頁六行ないし一一行)するところにある。

ところで、原告が本願発明における右構成の特徴として主張し、明細書上認められる根拠は、(イ)両腕部から頭部及び胴部にかけての取付部分が広いため、着脱時における両腕の挿入、拡開が容易である、(ロ)挿入した両腕を拡開することにより、外部の空気をより多く救命衣の前記取付部分に取り入れることができる、(ハ)前記取付部分が広いため、短時間に脱衣できる、などの諸点を目したものである。

一方、引用例におけるこれらに対応する明細書の考案の詳細な説明の記載をみると、「頭部(3)、両手部(4)、上半身部(5)に着用時に充分な空気保存部(6)を残すような大型に形成し、」(同二頁一一行ないし一三行)、「通気性の少いカバー体(1)が火焔や煙を完全に遮断することが出来、更に着用に際して頭部(3)、両手部(4)、上半身部(5)の空気保存部(6)に残存する空気により、三分~五分間位は充分安全な呼吸をすることが出来、更に着用に際して頭部(3)、両手部(4)、上半身部(5)は空気保存部(6)を残すため充分大型に形成したから火急の着用に際し裾口(2)からかぶるようにして速やかに着用することが出来」(同二頁七行ないし一五行)とあり、本願発明における前記の使用時における両腕の着脱・挿入・拡開の容易、火焔や煙から遮断された防火衣(救命衣)内部の呼吸用空気の確保の点は何れも引用例の右記載中ないしはその前提として当然考慮されているものということができる。

しかも、本願発明における三五度前後の傾斜と拡がり、すぼまりという限定も、人体の体形を考慮した以外、必ずしも根拠のある明確な数値的限定ともし難いし、適宜決定される設計上の選択の範囲を出る根拠も見出し難いので、引用例が前記構成としてその考案の対象としている形状・組合せの範囲と実質上差異はないものといわねばならない。(願書添付の図面にみられる実施の態様は別として両腕部から胴部へかけてのすぼまりについても本願発明のような実施を前記実用新案登録の範囲が排除しているともみられない。)。

そうすると、結局この点に関する構成上の差異を主張する原告の主張も採用できないものである。

2 作用効果の相違について

(一) 製造の簡易さについて

この点は、前掲甲第二号証の一ないし四によれば、原告も主張するとおり、従来周知の平面裁断により効果であり、前記1の(一)認定のとおり引用例もその考案の前提として予定している裁断法によるものであつて、本願発明との間に何ら相違は認められない。

(二) 酸素を確保する点について

前記1の(三)認定のとおり、本願発明がこの点に関する効果を目する構成において、引用例のものの構成と実質上差異は認め難いものであるし、効果上相違があるものということはできない。

(三) 脱着の容易、着衣中の活動の容易について

前記1の(二)、(三)の認定事実及び前掲甲第二号証の一ないし四、第四号証の一ないし三によれば、本願発明の救命衣も、引用例の防火衣も、構成において実質上相違が認めがたいところであり、効果上相違があるということはできない。

三 そうすると、審決には原告の主張するような判断の誤りはないから、これを理由として、その取消を求める原告の請求は失当として棄却する。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

表面部(1)と裏面部(2)との二枚からなる救命衣本体を平面裁断により輪廓を一体化して袋体を形成し、胸部、背部、頭部、両腕部および胴部を設け、前記袋体の頭部から両腕部にかけて水平方向に対し、三五度前後の傾斜度で、広がつていくようにその輪廓を形成し、さらに両腕部から胴部にかけて水平方向に対し三五度前後の傾斜度ですぼまつていくようにし、その下端部を使用者の体がかろうじて通れる程度の比較的狭い開口部を形成し、前記頭部の前後に透視窓(3)、(3)を形成した救命衣。

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